最近の動き(2022年12月1日)

 国民の抵抗の強さに直面し、ASEANなど国際的関係にも活路を見いだせないミャンマー軍事政権は、「総選挙」を演じて「圧勝」することにより、自らの統治の正当性を確立しようとして、来年8月に向けて動いているようです。
 こうした動きに呼応するかのような「日本の太いパイプ」が見られます。

解放された久保田徹さんの会見

 11月17日、ミャンマーで7月30日に拘束され10年の刑を宣告されていた久保田徹さんが、恩赦によって解放されました。帰国した久保田徹さんの会見(11月29日、日本記者クラブ)内容を、「強烈な暴力の気配を漂わせる男が『これを持て 』  その写真を撮られた私は、禁錮10年の有罪にされた」(『スローニュース【公式】調査報道やノンフィクションを支援します』2022年11月29日 21:00) で読むことができます。

  終始冷静に、言葉を選んでミャンマーでの体験、なお刑務所に閉じ込められている1万2千人の政治囚や自由に声を上げられないミャンマーの人々の声、日本がすべきこと、今後の活動について話しています。「ミャンマーに目を向けてほしい」という現地の人々の声が、印象に残ります。

 久保田さんは会見で、いま日本で行える支援として、次の2点を訴えています。

 私たちができることとして、まず一つは難民となった人たちを受け入れるよう働きかけていくことです。受け入れを積極的に行えるよう枠組みを整備する必要があります。
 また日本とミャンマーは経済的に非常に強いつながりを持っている。そういった資金が国軍に使われていないか、常に厳しい目でチェックを。
 日本の国会では、すでに民主的政権の樹立と、民間人の虐殺の停止、不当な拘束者の解放などを訴えかける声明を衆参両院で出しています。その決意表明に即して行動していくべきではないのかというのが私の意見です。

注)2021年6月8日衆議院、11日参議院、各本会議で「ミャンマーでのクーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復などを求める決議」を全会一致で可決。

現地メディアの情勢分析と主張

 久保田さんを含む11月17日の恩赦・一部政治囚の釈放について、ミャンマーの独立系メディア「キッティッメディア」は19日付社説「ミンアウンフラインと軍指導者に処罰を与えることとテロリスト軍の解散を除いて解決法は他にない、また、血ぬられた負債については議論するまでもない」で下記のように情勢を分析し、主張しています:

 軍事独裁制度とファシストである軍をミャンマーの国土から完全に排除することが人々の政治的目標である。
 ミンアウンフラインと軍指導者たちは、2年近くの間クーデターに完全に失敗し、軍権力者と軍に対する国民全体の反対が高まっていることを心配している。現在も状況をコントロールできていないように、将来も状況を維持することが容易ではないことを軍指導者はわかっており不安視している。
 彼らにとって最後の脱出口である2023年の形式上の選挙も全国民と国際社会、国内外の誰も受け入れないことをテロリスト軍はよく知っている。
 武器と権力をもってつけ上がり、厳しい態度で「誰とも交渉しない」「諸外国を相手にする必要はない」「少数の友好国とだけ手を組んでいく」と威勢の良かったテロリスト軍は、退路を断たれている
 退路を断たれている軍指導者と軍は11月17日に……一部の政治家の釈放によって脱出口を探して模索している様子がみられる
 ASEAN 特使であるカンボジアの外務大臣が……アウンサンスーチーとの面会許可がおりる可能性があるという情報も軍関係者が意図的に発表した。
 クーデターを起こした際、面会対話についてそっけなく強い態度を示していた軍が、現在は面会しての対話も準備ができているという、生来の良くない性質によって諸外国を欺く状況を作り出した。
 しかし、ミンアウンフライン、軍指導者と軍が理解していないのは、現在軍として本当に対話したくても、時間的にかなり手遅れであることだ。人々は軍隊を受け入れること、見ること、会うこと、聞くことをすべて望まないほどにまで憎悪している。
 ……
 不当に権力を奪取したテロリスト軍にとって、反省し国と国民を良くしたいという意思があるならば方法が一つだけある。奪った権力を人々の支持する政府のもとにすぐに引き渡し、軍を解散して彼らが犯した罪を法廷で認め罰せられることだけだ。

翻訳は東京外国語大学翻訳チーム

渡邉秀央氏が軍事政権No.2と会談

 ミャンマーの国軍系メディアは、写真入りの大きな扱いで、日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長のミャンマー訪問、軍事政権No.2との会談を報じました。

 国家行政評議会 (SAC) 副議長であるSoe Win副首相は、25日朝、ネピドーの SAC オフィスの応接室で、日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長を迎えた。
 会談では、日本ミャンマー協会の更なる協力策、ティラワ経済特区の改善に向けた取り組み、内外の政治・経済の進展、日本の投資、ミャンマーの政治情勢の変化、ロードマップと目標の実現等について率直な意見交換が行われた。
 会議には、U Kyaw Myo Htut 外務副大臣と関係者も出席した。日本ミャンマー協会会長は、渡邉祐介事務総長を同行した。 

11月26日付、Global New Light of Myanmar

 国軍を一貫して擁護してきた元郵政相の渡邉秀央氏は、軍事政権へのカネの流れが指摘されるティワラ経済特区の開発を推し進め、来年に軍事政権が行おうとしている「総選挙」を後押ししようとしているようです。
 同行した氏の息子である渡邉祐介事務総長も、昨年5月、英文論文 “On Myanmar, Japan Must Lead by Example” で国軍の軍事クーデターを正当化し、中国やロシアの影響を排除するために日本は軍事政権を支援する必要があると主張しています (The Diplomat, May 26, 2021――簡易翻訳が 「日本ミャンマー協会渡邉祐介事務局長の論文」『眞鍋貞樹の研究部屋』May 28, 2021 にあります)。

笹川陽平氏が軍事政権トップと会談

 11月29日に日本財団はホームページに「笹川日本政府代表が、ミャンマー国軍と少数民族武装勢力・アラカン軍との人道的停戦に成功」を公表しました。そこでは、

 笹川は、2022年11月25日から27日にかけて、ミャンマーを訪問し、国軍司令官並びにアラカン軍の最高責任者と会談し、人道的停戦の仲介を続けていました。更に年内にラカイン州を訪問し、詳細な調整をいたします。
 笹川は、2013年2月、閣議決定によりミャンマー国民和解担当政府代表を拝命し、少数民族武装勢力との和解のための当事者間の対話や少数民族地域での人道支援活動を行ってまいりました。

とうたっています。

人道的停戦の仲介

 ここにある「人道的停戦の仲介」について、笹川氏の言い分を補足します。
 アラカン軍 (AA) は、2009年に結成されたミャンマー西部ラカイン州のラカイン人仏教徒の自治権拡大を求める武装集団で、2018年12月から国軍と激しい戦闘状態にありました。
 「2020年11月にミャンマーで実施された総選挙に際し、笹川は、日本政府選挙監視団団長としてミャンマーを訪問、同国ラカイン州においては、ミャンマー国軍とアラカン軍との間で続く戦闘による地域の不安定を理由に、同州での選挙が見送られ」(同ホームページ) ました。笹川氏によると、その事態を憂いて精力的に動き、 2020年11月12日に同州における補欠選挙のための停戦を行うための合意を国軍・AAから取り付けたとのことです。

 2021年2月以降AAは、クーデター政権、国民統一政府(NUG)のどちらにも与せず、中立の立場をとってきました。しかし、今年の半ばから軍事政権との緊張が高まり、8月以降、両者の戦闘や砲撃、部隊の展開が始まり、2020年11月の停戦合意は無力化して戦闘が激化していました。
 現地からの報道によると、「軍事政権は、ラカイン州北部でアラカン軍 (AA) との戦闘が再開されてから閉鎖されていたいくつかの陸路と水路を再開した。 AA のスポークスパーソンは、医療物資の配達と地元住民のための『人道的停戦 』 だと述べた」(DVB English, 午後0:29 · 2022年11月28日) とのことです。

今回の人道的停戦をどう見るか?

 「人道的停戦」が行われ、戦闘による死傷者が出なくなり、地元住民が生活物資・医療品などを手にすることができ、農産物などの搬出ができるようになったことは喜ばしいことだと思います。
 同時に、笹川氏にとっては、2021年2月に国軍が民主的に選ばれた政権をクーデターによって軍事的に奪取し、以降、民主主義の破壊、国民への人道に反する犯罪を犯してきたことは、念頭にないようです。この間の1年10カ月間、ミャンマーの政治体制は変化がなく、クーデター前と連続しているようです。
 「こうした対話による成果が、長年争いが続くミャンマーにおける全体的な和平にも広がることを期待して、引き続き政府代表として働きかけを行っていきた」(同ホームページ) いとしていますが、軍とAAとの停戦合意は、(結果として) 軍事政権がミャンマー民主勢力への攻撃に力を振り替えることになるとも指摘されており、「総選挙」に向けて抵抗する民族武装勢力を懐柔・分断させる動きの一環にもなりかねません。
 氏は 「ミャンマー国民和解担当政府代表」として行動しており、このことが、日本政府の軍事政権との関係強化につながらないよう、警戒する必要があります。

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