2023年2月1日のミャンマー

「沈黙のストライキ(Silent Strike)」

静まり返ったミャンマーの街

2月1日午前10時から午後3時まで、全国150の市町村では、クーデターに抗議する「沈黙のストライキ」が行われました。
静まり返ったヤンゴン、マンダレー、ザガイン地方域、モン州、カチン州の町、厳重な警備の中にもかかわらずヤンゴンのダウンタウンに掲げられた横断幕「あなたが参加すれば、この革命は間違いなく成功する」。
他方、ヤンゴン市庁舎の前では軍事政権支持集会が開催されました。

Silent Strikeへの参加を呼びかけるフライヤー

以下のリンクをクリックすると、その様子が見られます。

軍は「沈黙(Silent)」を弾圧

軍はミャンマー国民の声を恐れています。TikTokに「2月1日にまたやろうか」と投稿したネピドー連邦領のピンマナ町の美容院経営者、ヤンゴン地方域でバス停に #SilentStrike キャンペーンのポスターを掲示した男性、モン州で #SilentStrike キャンペーンに関する Facebook 投稿を共有した女性が逮捕されたと報道されています。

この日の日本

林芳正外相は、ミャンマー政権が緊急事態宣言を更に延長したことを深刻に懸念し、暴力によって多くの死傷者が発生している状況を強く非難する、暴力の即時停止・被拘束者の解放・民主的な政治体制の早期回復、ASEAN「5つの合意」の早期履行、人道支援を求めるなどの談話を発表しました。
日本の超党派議連とミャンマーの国民統一政府(NUG)とが院内で集会を共同開催し、国軍への圧力を求める声明文を日本政府に提出しました。
在日ミャンマー人コミュニティが主催する在日ミャンマー大使館前抗議集会や、FoE Japan/メコン・ウオッチ/アーユスなど諸団体が主催する「日本政府は対ミャンマー政策の再構築を!」首相官邸前デモなどが、各地で行われました。

非常事態宣言の「延長」決定

軍事政権が国防安全保障理事会 (NDSC) 開催

憲法で規定された非常事態宣言期間の2年間が終わる1月31 日に開催したNDSCは、ミャンマー国軍最高司令官から「反乱と流血によって国家権力を獲得しようとする試みが行われている異常な立場にある」との報告を受け、憲法第425条に則り、国軍最高司令官への国権委譲期間を6か月延長すると決定 (詳細発表は2月1日) しました。
非常事態宣言が6か月間延長され、憲法で非常事態宣言終了後6か月以内に実施しなければならないと規定されている「選挙」も、延期するとみられています。

日本のミャンマー研究者の反応1

こうした軍事政権の決定について、京都大学の中西嘉宏教授は「最長2年とこれまで理解されていた非常事態宣言が、425条の新たな解釈(ご丁寧にも憲法裁判所の合憲判断付き)で延長され、実質的には、軍の判断で何回でも非常事態宣言を延長できることになりました。またひとつ、軍の行動をしばる箍が外れたという印象」と指摘しています。

日本のミャンマー研究者の反応2

外務省専門調査員として在ミャンマー日本大使館勤務の経験もあるミャンマー研究者・伊野憲治氏は「ミャンマー国軍における『法の支配』と今後の展望」(2023年1月25日, 笹川平和財団 アジア平和構築イニシアティブ) で、憲法に照らして国軍の全権掌握過程、選挙制度改正問題を検討し、「現軍事政権下のミャンマーは、『法の支配』とは程遠い状況」だと結論づけています。
そして、この論文で今後の展望として提示された3つのシナリオの中の第二のシナリオ「緊急事態のさらなる延長」が、2月1日に現実化しましたが、氏は、第二のシナリオは「国内の混乱状況→軍政の延長→国内の混乱状況悪化という負のスパイラル」に陥り、国際社会の理解も得られないと指摘しています。

軍事政権が完全に支配している領土は半分もない

NDSCでミャンマー国軍最高司令官は、ミャンマーの330郡区のうち、完全に管理できているのは 198 の郡区だけだと報告しました。
一方、NUGの U Yee Mon国防大臣は、303 のPDF 大隊と国民防衛組織 (PaKaFa) が 260 の郡区に設立されたと述べています。

Tayzar Sanの呼びかけ

2021年2月に全国に先駆けマンダレー街頭抗議活動を開始し、「春の革命 (Spring Revolution)」の主要なリーダーの一人であるDr. Tayzar Sanは、ミャンマーの人口の70%が住んでいる農村地域のほとんどすべてはNUG-PDF や ERO (民族武装組織)などの革命組織によって支配されていて、軍事政権に国を掌握する能力はない、近い将来軍が支配できる地域は大都市とネピドーだけになり、 徐々に大規模な公共の戦いが大都市に到達するとの展望を述べています。

ミャンマーの現状:いくつかの出来事

クーデター2周年の2月1日前後、新聞やテレビでミャンマー特集・ニュースが報道され、ヤンゴンなど大都市に戻った「平穏な生活」、国軍による空爆や重砲で破壊された多数の住居、クーデター政権に対して抵抗する若者、ジャングルで銃を手にする国民防衛隊の若者、寒さに震え飢えに苦しむ国内避難民などの様子を目にされたことと思います。

軍事政権は戦闘がつづく地方でインターネットを遮断し、報道機関から免許を取り上げ、国民のスマホ検査やSNSの検閲など情報統制をしており、ミャンマーで何が起きているのかは雲をなでているようです。断片的なものになってしまいますが、いくつかの出来事やインタビューから考えてみます。

AAPP発表

抵抗する市民の殺害を続けるクーデター政権

AAPPの集計によると、2年前のクーデター発生以降、軍事政権によって2,947人が殺害され、1万7,598人が拘束され、現在も、服役中の2,299人を含めて1万3,787人が拘留されています。そして、欠席判決を含め143人に死刑が宣告され、3人が処刑されました。

非人道的な空爆のエスカレート

下記リンクから見られるBBC のビデオは、2021年3月から2023年1月にかけてミャンマーで発生した空爆の場所を特定しています。
軍による空爆は、地上戦では劣勢なミャンマー軍が民族武装組織・国民防衛隊を攻撃しているだけでなく、抵抗勢力への支援を威嚇するために村々を攻撃して民間人の住居を破壊し、住民は避難を余儀なくされています。
こうした非人道的な軍事力行使をやめさせるために、戦闘用ジェット機・ヘリコプターの武器輸出、航空機用燃料の供給を止めることが有効です。

軍の中での深刻な人権侵害

ジャーナリスト増保千尋氏が、元軍医にインタビューしている「あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性」(ニューズウィーク日本版, 2023年1月26日) は、戦闘によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症しても何の治療も施されない兵士が、酒と麻薬の力を借りて前線での任務を継続しているという実態を明らかにしています。麻薬は国境警備隊から入手でき、酒と麻薬は恐怖心を薄れさせ、村を焼くといった行為も抵抗なく実行できるそうです。

強盗が横行し、薬物がまん延する無法状態

軍事政権の領土支配も民族武装勢力の領土支配も機能しない地帯では無法な麻薬取引やカジノが横行し、この間の大量「恩赦」で更生していない犯罪者が刑務所から外に出て強盗などを行い、失業などで生活に困窮する人が増え、治安が悪化しているようです。以下のレポートが、そうした状況を伝えています。

「【ミャンマー】軍事クーデターから2年 若者に“薬物”まん延」(日テレNEWS, 2023年2月2日放映)

「クーデター2年 薬物犯罪放置、カジノ開発、強制労働…ミャンマー軍政、市民置き去りで違法経済拡大」(東京新聞, 2023年1月30日)

人生が変わった市民

ロイターは、「アングル:ミャンマー政変から2年、平穏失い苦闘する4人の物語」(REUTERS, 2023年2月1日) で、4人の市民 <民主派兵士> <元外交官> <元ミス・ミャンマー> <元教師> のインタビューを伝えています。

迫害からバングラディシュの難民キャンプに逃れたものの、先が見えない劣悪な環境から逃れるために、危険を冒して船で荒海へと脱出を図るロヒンギャたちの声は、なかなか届きません。
記者たちがインタビューして記録することができない無数の市民がいます。

1988年の民主化闘争にかかわり国外に脱出して以来30年間日本に住むミャンマー人はこう語ります。
「最近は「国軍側への敵対姿勢を明確にしなければ、民主派側から攻撃を受ける」という話も耳に入る。「もちろん国軍は許すことはできないが、2つに分けられるほど単純じゃない。憎しみが憎しみを生んでいる」(『東京新聞』2023年2月2日 11時00分, 岩崎健太朗記者)

軍事政権の鉄壁の支配にかげり?

軍事政権は支配領土を国土の半分に押し込められているのに、圧倒的な軍事力を誇る軍が負けることはありえず鉄壁の支配をつづけるだろう、という見方が日本のマスコミでも大勢のようです。
つい最近、鉄壁に裂け目が生じつつあるかもしれないと思わせる起きた事件がたてつづけに起きています。

軍内部の規律のゆるみ

1月23日、都市ゲリラに潜入して、都市ゲリラの分裂を工作したり、摘発するといった特殊作戦を行っていた軍のヤンゴン管区尋問担当少佐と軍曹が、バゴー地方域PDFの周到な作戦によっておびき出されて射殺され、武器は没収されました。この作戦の成功は、2人の極秘の行動予定情報がPDF側に伝えられていたことを推測させます。

また、1月29 日夕方、兵士Pyin Oo Lwinが、軍事通信・電子訓練学校副校長である将校に銃弾2発を発射し、射殺するという反乱が起きました。軍はこの事件を極秘にしましたが、内部からリークされました。

軍用ヘリコプターが撃墜される

2 月 3 日午後3時45分頃、ザガイン地方域Hommalin郡区で発生した戦闘中に軍事評議会のヘリコプターが撃墜されたことをNUG 国防省は確認しました。地上での戦闘の劣勢を、空爆によって立て直しているミャンマー国軍にとって、軍用航空機の撃墜は大きな痛手だと見られます。

CDMをめぐる動き

CDMerの状況

クーデター政権の命令に従っての職務遂行を拒否して軍事政権に抵抗している25万人の教育者が、逮捕、拷問、長期の懲役刑、死の危険にさらされています。

今週初めに非常事態宣言をさらに 6 か月延長するためのNDSCで軍事政権のトップは、過去2年間の政権の活動について報告し、Covid-19の第3波の間、全国に10万3,214人の医療従事者がいたが、4万8,492 人が職務に就くことができず、そのうち 4万7,254 人がストライキ参加者だったと述べ、4万7,254 人の医療従事者がCDMに参加したことを認めました。ミンアウンフライン氏によると、国の医療従事者の約半数が CDM に参加しています。(THE IRRAWADDY, 4 February 2023)

「ミャンマー軍は、CDM による被害による崩壊をどのように食い止めましたか?」

ミャンマーで政治アナリストおよび人権活動家として働いていたLian Bawi Thang氏 (ロンドン大学 SOAS国際政治修士、現在ハワイ大学マノア校政治学博士課程) は、国際社会に次のように警告しています。

ミャンマーのクーデター政権は、公務員や治安要員が反クーデター運動、特に市民的不服従運動(CDM)に参加するのを防ぐという重大な課題に直面してきた。その対CDM戦略は権力の腐敗を容認するものであって、こうした軍事政権との国際的な関与は、ミャンマーの地域社会に利益をもたらすのではなく、政権に正当性を与えることになる

以下、Lian Bawi Thang, “How has Myanmar’s military stalled collapse from CDM-inflicted damage?” (BY TEACIRCLEOXFORD POSTED ON JANUARY 17, 2023) から、彼の主張を紹介します。

なお、こうした評価に対して、CDMを過大に評価している、あるいは、いま復学すれば処罰しないという軍事政権の提示に応じて多数の学生CDMが苦悩の末に昨年末大学に戻った、CDMは弱体化している、また、ニンジンとムチの戦略は1988年以来軍事政権が採ってきた、抵抗勢力の分断を図る常套的な戦略である、といった意見があります。

ミャンマーは半ば破綻した状態

Lian Bawi Thang 氏は「ミャンマーの現在の政治情勢は、政権が都心部の支配を維持している、半ば破綻した状態」で、「国の北西部、特に紛争が激化しているザガインでは、SAC も NUG も完全な領土管理を行っていないよう」だとしています。
NUGは抵抗組織が国土の53%を支配していると主張し、ミャンマー問題に関する国際的な独立組織もこれに同意しています。
独立メディアの「THE IRRAWADDY」は、クーデター以来軍事政権がカチン州、チン州、カヤー州、カレン州、ラカイン州などの民族州で 90 近くの軍事基地を失った、という独自調査を発表しています。

氏は、「クーデター政権は、亡命、脱走、徴兵問題にも苦しんでいる」 と指摘します。
クーデター以降、約 1万人の治安部隊 (約 8,000 人の兵士と 2,000 人の警官) が離反したと言われています。
クーデター後の数か月でCDMは36万人を超え、現在、約20万人が存続していると考えられています。

軍事政権は、「CDM の人気の高まりを、経験豊富な役人を枯渇させ、野党、NUG、少数民族武装組織に機密情報を漏らしている」という点で、主要な内部脅威と見なしているのです。
こうして氏は、軍事政権は「CDM が政権に与えた損害をどのように管理するのが最善かということに急速に関心を移している」として、それを「体制のニンジンとムチのアプローチ」ととらえます。

体制のニンジンとムチのアプローチ

CDM に対する軍の最初の対応は厳しい「ムチのアプローチ」で、CDM に参加した公務員だけでなく支援者をも逮捕して法的な処罰を課し、主に教育部門の14万人以上の公務員を解雇しました。

しかし、「法的脅迫は効果がなく、政権はストライキ中の公務員の交代に苦労」し、公務員や治安部隊への参入の基準を下げざるをえなくなります。
これまで、合格率が10% 程度あり、年間約 1万2,000 件の応募者があった3 つの軍事学校(国防大学校、国防科学技術大学校、国防軍医学校)では、2021年の申請は主に軍人家族の約 100 件しかなく、募集期間を延長しました。
2022年6月、政権の保健省は、入学試験に合格したものの医科大学への入学基準を満たしていない学生に向けて、とにかく出願するよう奨励する声明を発表したほどです。

これらの課題に直面した政権は、CDM公務員が仕事に戻ることを条件に法的措置を免除することを約束し、「政権の戦略はニンジンのアプローチに移行」しています。

不処罰のインセンティブ

ニンジンとムチのアプローチは、公務員と治安部隊の両方の職場復帰に焦点を当てていたため、残りの公務員が CDM に参加するのを防ぐためには、別の戦略が緊急に必要でした。
そこで政権は、クーデター政権のために働き続けた公務員と治安要員の両方に「不処罰のインセンティブ」を提供し始めます。

このアプローチは、広範な汚職、インフレ、搾取をもたらし、貧しい人々の生活をより困難にしています。
「おそらく最もグロテスクな戦略は、兵士に法的保護を提供する戦略であり、その多くは性的虐待を犯し、民間の財産を盗み、罪のない民間人を殺害」しました。

国際社会が認識すべきこと

多数の無辜の市民の死、100 万人の国内避難民が発生している一方、現在の時期を個人的な利益のための絶好の機会と見なしている公務員と治安部隊がいます。

「国際社会は、彼らが政権によって冷酷で深刻な腐敗に駆り立てられていることを理解し、関与アプローチが政権の行動を正当化するのに役立つだけであることを認識しなければなりません。」

NUCCのCDM政策

4つの方針

国民統一諮問評議会 (National Unity Consultative Council ; NUCC) が2023年1月20日に、「NUCCの公務員CDMに関する政策」を発表し、これに基づき、以下の 4 つの方針が策定されました。

1.  NUCC は、CDM公務員が国を変える革命において重要な力であることを記録し、尊重する。
2.  CDMに参加した国民に対する移行期正義(大規模な人権侵害)の再発見を認識し、文書化する、真実と正義の探求を尊重する、損害賠償を含む。
3.  承認され、JCC-CDM に提出されたCDM公務員に関する政策文書に基づいて、必要な法律・ルールと手順を引き続き開発する。
4.  独裁者を支えるNON-CDM による、CDM 公務員を含む国民全体に対する人権侵害・暴力は、犯罪が行われているという証拠が見つかった場合、それぞれの地域で承認された関連する現地の法律に従って措置が取られる。

CDM政策への意見

「公務員 CDM 政策文書」についてのあるミャンマー人のレビューを紹介します。

NON-CDM を無条件に解雇すべき?

NUCCのFacebookページのコメント欄に寄せられたたくさんの投稿は、NON-CDM公務員に対する処罰セクションでは生ぬるすぎ、無条件に解雇すべきという要求がほとんどでした。

いまNON-CDMには、革命を破壊するためにCDMを苦しめているNON-CDMもいますが、NUG 側でも独裁軍側でもないNON-CDMたちもいます。
革命が勝利した後にすべてのNON-CDMを解雇すると発表した場合、後者のNON-CDMたちも革命を破壊しようとする可能性があります。
NUG はそれを考えて NON-CDM 公務員に対する処罰アクションを発表したと思います。

NON-CDMがいるかぎり、良い行政はできない?

NON-CDMたちは態度と行動が悪いので、行政機関の仕組みの中で NON-CDM たちがいる間は、良い統治、良い公務員制度をつくれないという意見もあります。

これは本当です。しかし、革命が終わった後、統治する政府は、以前の監視と教育システムは破棄し、罪人を罰し、善人を尊重する実力主義のシステムを採用するでしょう。
結論として、この 公務員CDM 政策文書の発表は革命の大きな動きの一つです。また、これはCDM 参加者のためだけではなく、革命にとっても非常に嬉しいことです。
革命は必ず成功する。

2023年2月1日前後の1週間にミャンマーをめぐって起きた出来事の詳しい日誌は、
 29/JAN-04/FEB/2023 #WhatsHappeningInMyanmar
をご覧ください。

Follow me!

2023年2月1日のミャンマー

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


トップへ戻る
Translate »
PAGE TOP