ミャンマーで公然と売買される偽造紙幣

「偽札」について

世界的な偽札流通状況

日本はお札の偽造が世界的にも少ない国で、偽札が使われたというニュースはめったに聞きません。流通量が多い米ドルは、日本の600倍の偽札が毎年発見されているそうです。

在中国の日本大使館は公式HP上に「中国での偽札に関するQ&A」という欄を設け、「中国ではキャッシュレス化が進展しているとはいえ、現金による支払いも引き続き可能で、支払い方法を選択することができます。現金を使用する場合には、中国では依然として偽札が広く混在しているため、偽札検知器で偽札でないかどうかを必ず確認されます」と注意喚起をしているほどです。

偽札と偽造防止技術

偽札の歴史は紙幣流通の歴史とほぼ同じだと言われています。紙幣の発行責任者は、紙幣偽造に対して厳罰を科すとともに、偽造防止技術を絶えず進化させて対抗してきました。

最新の偽造防止技術には、インキを高く盛り上げ、触るとざらざら感じる 「深凹版印刷」、紙の厚さを変えることによって濃淡の差を表現する「すかし」、用紙に棒状のすき入れを施した「すき入れバーパターン」、お札を傾けて見ると模様・文字がうかびあがる「ホログラム」「潜像模様」や「パールインキ」「光学的変化インキ」、紫外線を当てると模様・文字が発行する「特殊発光インキ」などが使われています。

紙幣に使う用紙も、特殊な印刷が可能で、耐久性や耐水性にすぐれた性能が要求される特別に製造されたものです。

SNSで公然と販売されるミャンマーの偽札

ミャンマーの通貨であるチャットを狙った偽造者の歴史があります。VOAビルマサービスによれば、2014年までに、政府は偽の通貨を識別しやすくするためのセキュリティ機能を備えた紙幣の発行を開始しました。

ミャンマーでは2021年2月1日のクーデター以前は、ドイツの印刷大手ギーゼッケ・アンド・デブリエント (Giesecke & Devrient) 社がチャット紙幣製造の原材料を供給していました。同社は、EUのユーロ紙幣の印刷も行っている会社です。

ところが2022年2月以降、公然と偽札を販売するような状況がSNS上で話題になりました。3月5日、ヤンゴン西部のHlaing Tharyarの縫製工場の労働者は、彼らの給料の中に偽造された一万チャット紙幣を発見しました。一万チャット紙幣は約5.6米ドルの価値があります。

ミャンマーのメディアであるRFA、VOA Burmese Service、Mizzima等の報道をもとに、この偽札問題について紹介します。

偽札はどのように販売されているのか?

偽札の販売方法

偽札の販売業者は、オンラインで宣伝したり、全国のバスターミナルの壁にチラシを貼ったりして、購入者を募っています。

Mizzimaの記者が、Dayliというフェイスブックアカウントに「偽造紙幣のサンプルを見て少し買いたい」と連絡して、ヤンゴンの賑やかなショッピングモールである「Hledanセンター」入口前で偽札販売人と実際に会いました。
そのときの様子を記者は、彼は「黄色のシャツを着て、黒いスポーツバッグを持って、他の人と一緒に座っていました。彼はあちこちを見ていますが、偽造紙幣を買いに来る人に対して全く疑念はなく、恐れはないようです。彼に手を上げて合図をすると、バッグを抱えて歩き出しました。彼は他のところに行かず、Hledanセンターの入口の前で偽造紙幣が入っていたかばんを開けて、直ぐに偽造紙幣を渡しました。そして、警戒もせず、普通に話しだしました」と書いています。

このように、偽札販売業者はフェイスブックアカウントから購入者を募り、人々が大勢集まるような場所で直接会い、堂々と偽札を販売しているようです。また、宅配便を利用しての販売も行っているそうです。

偽札の値段

RFAによると、ここ数週間で100万チャット(560米ドル)相当の偽造紙幣をわずか100,000チャット(56米ドル)で提供する広告が急増していることを指摘しています。

Mizzimaが話を聞いた偽造紙幣販売者は、本物の紙幣1枚に対して、同じ額面の偽の紙幣を10枚で売買するという場合があり、1枚に対して6枚、1枚に対して2枚という売買もあるとのことです。
このように、偽札の値段が違う理由は、「10倍で売買しているのは質が悪いものです。自分だったら、偽造紙幣を使うからには、質が良い偽札だけ使います。私は質が悪い偽札をたくさんもっていますが、それは使わないでそのままにしています。もしあなたが欲しかったら、5倍それとも7倍まで売ってあげるます」と言っています。

偽札を使うときは、、、。

その偽造紙幣販売者は、「本物の一万チャット札には大きめの紙幣も小さめの紙幣もあります。偽札の一万チャット札も、大きめにも、小さめにも作られています。ですから、大きい紙幣にせよ小さい紙幣にせよ、どちらでも本物の中に挟んで使うことができます。明日も、建材売買業者が70万チャットの価値がある偽札を取りにきます。彼らは本物の中に挟みこんで使うから、大丈夫です。そうしないで1枚ずつ使う場合は、ちょっと注意する必要がある」と言います。

なぜ、偽札が増えてきたのか?

クーデター後、紙幣製造が止まる

クーデター直後の2021年3月31日、ユーロ紙幣の印刷も行っているドイツの印刷大手ギーゼッケ・アンド・デブリエント (Giesecke & Devrient) 社は、ミャンマー国営企業Security Printing Worksへの全ての原材料の発送を即時に停止するという声明を発表しました。人権抑圧を行っているミャンマー軍事政権への経済制裁の一環です。
同社はミャンマー向けに、ミャンマーのチャット紙幣印刷に使用する紙幣専用紙の輸出・技術システムの提供を行っていましたが、それが途絶えたことによってミャンマーでは紙幣印刷が難しくなり、市中での紙幣流通が減少し、経済活動を悪化させる一因にもなってきました。
ところがIrrawaddyによれば、ミャンマー中央銀行は「新しいお金を印刷していることを公式に発表しなかったが、2021年8月に新しい紙幣が流通し始めた」とのことです。
いくつかの新しい紙幣の色が色あせたり変わったりしたと言う人が出てきて人々は疑問を呈し始め、2022年3月初めに、偽札が流通しているのではないかという最近の疑いがでて来ました。
軍事クーデター以前にも偽造通貨は存在していましたが、現在のようには普及せず、また、公然と販売されることもありませんでした。

偽札増加の背景

こうした経緯から考えると、偽札が増えている背景には、以下のようなことがありそうです。

クーデター後、市民的不服従運動(CDM)に大勢の行員が参加して銀行が機能しなくなり、さらに、経済不安による市民の預金引き出しを阻止するために軍事政権が現金の払出制限を行ったことに加え、新たな紙幣の印刷発行ができなくなり、市中に出回る紙幣がひっ迫しました。
生活費や急な入用のために現金を手にしたい市民に、さまざまなブローカーが群がり、高利で現金を貸したり、高い手数料で外国からの送金を現金化したり、貴金属を安く買いたたいたりします。このようなブローカーには、犯罪グループが絡んでもいるでしょう。
そうしたなか、従来はドイツの技術を使い、ドイツから輸入した紙幣用用紙で作っていた「正規」の紙幣にかわって、質の悪い紙幣が供給されます。人々は、従来とは違いがあるこの紙幣が本物なのかどうか、疑います。
ここに、犯罪者はつけこみ、偽札を大量に販売するチャンスをみたのではないでしょうか。
偽札製造には、それなりの技術、販売力、それに極度に厳重な秘密保持が必要です。犯罪者は、組織力のある集団でしょう。

軍事政権側の見解

軍事政権のスポークスマンZaw Min Tunは、「われわれは何枚かの偽造紙幣を発見したが、それほど多くはなかった。そして、偽物の品質は高くはなかった」と述べ、偽造紙幣が増えているというソーシャルメディアでの懸念を完全に却下しました。
2022年3月24日に開かれた第12回記者会見で、Zaw Min Htunは偽造紙幣の売買について、「その噂についてあまり心配するな。ソーシャルメディアで偽造紙幣を販売しているとか、本物の紙幣の写真をとってごまかしていることとか、実際に売る代わりに、オンラインで信頼できるふりをして人々をだますこととか、売り手は買う人から30,000チャットの保証金もらったら電話を切ったり、アカウントを削除したりすることとか、いろいろ調べている」と述べました。

ミャンマー中央銀行の当局者は、偽造紙幣だという噂を否定し、それは新しく印刷された合法的な紙幣だと主張しています。
VOAビルマによると、中央銀行のU Win Thaw副総裁は、「新しく印刷されたチャット紙幣は、古い紙幣と比べて見た目や感じが少し異なっていても、本物である。偽造紙幣の問題はない。中央銀行は紙幣を発行し、品質とセキュリティを確保する責任がある」と述べています。

しかしRFAにコメントしたある専門家は、「当局が知っているのは命令を出す方法だけで、それを実行する方法は知らず、体系的あるは技術的な方針を提供していない。軍事政権は問題に対処するようにはなっていない」と指摘しています。

本物と偽札の見分け方

千チャット札

2022年2月中旬に2回も偽札を発見したとRFAに語ったある営業担当者は、「現在、現金取引を行う際、すべての紙幣の透かしと厚さを定期的に調べています。偽物を検出するためのツールがない普通の人にとっては、偽物を見つけるのは難しい」と言っています。
両替商には偽造紙幣を検出するための機械がありますが、一般の人々はそれらにアクセスできません。こうした検出器を利用できない場合、特に多額のお金が関係している場合は、銀行口座を介して支払いを処理するのが最善の選択肢のようです。

多額の金額を扱うわけではない一般の人々であっても、偽札がやって来ます。買い物をしているときに偽札が来ても、それを知ることはできないでしょう。
その偽札を、知らないまま別の買い物で使用します。そうして、偽札は徐々に増加します。
若い人たちでさえ偽札に気づくことは難しいのに、年を取った人たちはどうやって知ることができるでしょうか?
実際に偽札を受け取って、偽札だと気づいた場合、損失が生じます。偽札の問題は非常に深刻です。

Irrawaddyの記者は、会社の取引金のなかに偽札を見つけた人の話を紹介しています。
それによると、偽札は本物の紙幣とは、お札の表面がちがいます。偽札の表面はなめらかですが、本物は少しでこぼこしています。
また、お札に描かれている絵や文字の色が、偽札は濃い色です。
しかし、これらの違いは、急いでみても気づかず、注意深く見ないと分かりません。

この人は、はっきりと違いを見分ける方法を見つけました。そのきっかけは、お札に書いたボールペンの文字に手指消毒剤がついたとき、文字が滲んだことです。
本物の紙幣に手指消毒剤を流しても、濡れるだけで、文字や絵柄はもとのままで形が崩れることはありません。しかし偽札の場合は、文字や絵柄のインクが溶け出してまわりに広がり、ついには全部が溶けて消えてしまいます。

Mizzimaも、同様の指摘をしています。
偽造紙幣は千チャット札、五千チャット札と一万チャット札があり、千チャット札の偽札は注意しないで見ると本物と思ってしまいます。
一万チャット札の偽札は本物より色が明るくて、ある偽造紙幣はMyanmar Central Bank を表すCBMのマークもなく、ある偽造紙幣はCBMのマークが薄くなっています。または「10000」の数に反射がなく、光を透かして見ても薄い蓮の図がありません。偽造紙幣の表面は平らです。
すべての偽札の共通点は水に触れると色が変わることです。

偽札に気づいたらどうする

偽札を発見してしまったら、そのお金はなかったものになります。

会社の現金取引で偽札を見つけたら、「自分のポケットから支払う必要があり、一万チャット札の偽造紙幣が2枚、3枚とあった場合、そうするのは簡単ではありません。それはとても痛かった。3万チャット (17米ドル) は私たちにとって、たいへんなことです」と、ある会社の営業担当者はRFAの記者に語っています。

快適な生活をしている人にとって1,2枚の五千チャット札あるいは一万チャット札の偽物をもらってもあまり困りませんが、貧しい生活をしている人にとっては、1枚でも2枚でも偽物をもらえばもらうほど本当に生活に困りますと、Irrawaddyのインタビューに答えています。

Mizzimaのインタビューに答えた八百屋さんも、「私たちのような生活が苦しい人にとって、お金はとても大事なものです。自分の手に入れたお金に偽造紙幣が混ざるのはとても大変なことです。それに私たちにとっては1万チャットの金額も多い額です。今では一万チャット札を手に入れたら、それが本物かどうかいつも悩んでいます。お金が本物なのか偽札なのかとチェックしている」と言います。

中央銀行によると、知らずに偽造紙幣を使用した場合であっても逮捕され起訴される可能性があり、偽造紙幣の販売を取り締まっていると、TollywoodViralは伝えています。

偽札が増えるとどうなるのか

ある偽札販売者は、「偽造紙幣は他人の涙なしでできることです。あなたは正直に働くことができます。正直に働くということは、偽札であると言って売り、買う人も偽札と分かって買うことです」と、販売者になるよう誘っています。

クーデターへの抗議に対する軍事政権の暴力的な弾圧は、ミャンマーへの投資家の信頼を失わせ、失業者を増大させ、経済を混乱させ、一般の人々はその結果に苦しんでいます。

偽造紙幣の急増は、チャットの価値を下落させ、商品価格を上昇させ、クーデター後の悪化する食糧不足への対策にすでに取り組んでいる人々の不安を増大させるだけです。

(by Yu)

以下の記事を参考にさせていただきました。

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